IT派遣から不動産業へ転職するまで【私のスペック】
私はもともとIT業界で派遣社員をやっていたのですが、
あるとき、40代にもなって何の資格もスキルもないことに気が付き
さすがに現状のままでは、派遣切りとかにあったら今後の人生が厳しいかなと思い
一念発起して、宅地建物取引士(宅建)の資格を取得しました。
しかし、資格を持っていてもスキルがないので就職活動は難航。
この年齢、しかも派遣生活が長かったということもあり、就職活動は34連敗。
不動産業界自体が全体的にブラックな業界なので、運よく面接まで進んでも
高圧的な態度で私の人生についてダメ出しや人格否定するような面接官にも遭遇し、
一時期、かなり精神的に凹んだ状態まで追い込まれました。
「食っていくためには、またIT系派遣に戻ろうかなあ」と考えていたところに
ネットの求人サイトを通し、今の会社からオファーがあったのが、入社のきっかけとなりました。
ブラックさ加減はすでに面接の時から
募集ポジションは「宅建持ち優遇の不動産賃貸管理」。
渋谷の坂を上がった、古めかしい雑居ビルの中に、会社の事務所はありました。
会社に入ってみるなり、まず社内の雰囲気が暗かったのが気になりました。
天井の蛍光灯が一列間隔に間引いてあったのが原因だったのですが、
これは入社したあと気づいたことでした。
会長室に通されると、ソファにふんぞり返っている会長。
会長はストライプのダブルのスーツなんか着ていて、見るからにヤクザの親分。
たばこをふかし、時折、昔ながらのガラスの灰皿に灰を落としています。
そして、すぐあとからやってきたのは、息子の社長。
社長はロン毛でアロハに短パン、サンダルという、ラフすぎる出で立ち。
会長室に通されたときに社長の横を通ったんですが、他の社員はみんなスーツを
着ているのに、社長だけがそんな恰好だったので、面接が始まるまで
さきほどの人はてっきりバイトか臨時職の人かと思っていました(笑)
さっそく面接が始まると、私が職務経歴を一通り話したところで、
会長の昔の武勇伝が始まりました。その間、およそ1時間くらいだったと思います。
しかしその間、社長はまったくの無反応。
社長は履歴書にも職務経歴にも目を通しませんでした。
面接の最後に会長が社長に対して
「おい社長、おまえ、彼どう思う?」
「会長がいいなら、問題ないと思うッスけど」
なんていうやりとりがあって、その場で即採用の内定が出てしまいます。
この会社、実際の全権を持っているのは、社長ではなくて未だに会長なのです。
いきなり「じゃあ、いつ来てくれる」という話になり、
あれよあれよという間にたたみ込まれ、就職活動に疲れていたこともあり
結局、私の人生の中で最もブラックな会社へと就職することになってしまいました。
人生初「給料手渡し」
入社初日「どうもこの会社はおかしい」ということに、さっそく気づいてしまいました。
給料の金額はその時はじめて提示されました。就業条件明示書には、
「月給19万。ただし試用期間中は月給16万5000円とする」との記載。
多少安いのは覚悟しましたが、まさかこんなに安いとは・・・。
自分の人生で、派遣などの非正規時代も含め、過去最低の賃金です。
その後、事務の女子社員からオリエンテーション的にいろいろ説明を受けましたが、
給与振込口座についてその時に何も聞かれなかったので、
「給与の振込先はどうなんですか」ということを聞いてみました。
そしたら「あ、うちの会社は給料は月末に手渡しです」という驚きの回答。
「いまどき手渡しなんですか?」と、思わず聞き返しそうになりました。
しかも「給料袋は毎月使うので、お金を受け取ったら袋はちゃんと経理に戻してくださいね」
とのこと。
給料手渡し、しかも給料袋は毎月リユース。
(単にケチなだけなんですが)
ああ、これは相当ヤバいところに来てしまったかもしれない・・・。
きっと、昭和のまま時間が止まってる会社なんだ。
初めてそう実感した瞬間でした。
そして、おかしなところはこれだけにとどまりません。
いまどき就業室内で喫煙可能
驚いたのが、就業室内に入ると、どこからかタバコの臭いがしてきました。
そしたら、室内奥のパーテーションを切った向こう側に、
なんと喫煙スペースが見えたのです。
面接のときはちょうどタバコを吸っている人がいなかったからか
まったく気づきませんでしたが、これは非喫煙者である自分にとってはキツイ。
というか、このご時世、就業室内に喫煙室があること自体がビックリでした。
男女差別上等
おかしな就業規則もあります。
「男子社員は9時出社、女子社員は8時半出社。
女子社員は社内の清掃と社員全員のお茶出しをすること」
いまどき時代錯誤も甚だしいのですが、なぜかみんなこれを
当たり前のように受け入れています。
女子社員は全員が10年以上いるベテランばかりですので、
すっかり社畜化して当たり前のように思っているのかもしれませんが、
一般的な会社も渡り歩いている自分としては、とても違和感を感じました。
ただし、休暇は女子社員のほうが圧倒的に多いです。
(年換算だと25日分くらい)
しかも、女子社員には営業ポジションを任せられている社員はいません。
すべて制服を着た女子社員だけです。
長く会社に残っている女子社員は、おそらく女子であることを理由に
早出はしなければならないものの、さまざまな免除を「特権」として
享受できているため、あえて会社をやめる理由がないのかもしれません。
会長としても「男女の雇用機会均等なんて上等だ」というのが本音でしょう。
いまどき業務用の個人パソコンなし
さらに驚いたのが、個人の業務用PCがないということです。
見積書や請求書はいまだに手書きの複写式。
カーボン紙を挟んで、ボールペンで伝票を書き込んでいきます。
「いまどきカーボン紙なんてまだあったんだ~」なんて、変な感動を覚えてしまいました。
大量にあっても、パソコンでガーッと印刷するなんていうことはできません。
台帳類も、もちろんすべてアナログ。
我々は不動産管理のセクションなので、管理物件の設備の入れ替えなどがあると、
台帳の内容を抹消して、新しくまた書き込むという作業をよくやるのですが、
こんなことはパソコンでやらせれば一発で済む作業なのに、超面倒くさいのです。
ちなみに社内のPCは、社員20人に対し、経理のPC、共有PCが3台、計4台しかありません。
ワードやエクセルを使いたくても、使いたいときに使うことができません。
ポジティブにとらえれば、ハッキングやらデータ消失の危険がない、
しかも停電なども関係ない「最高のセキュリティ」だとは思いますけどね(笑)
超アナログなスケジュール管理
パソコンが個人に貸与されていないので、当然、サイボウズみたいな
グループウェアなんていうものはありません。
(うちの会社の人はグループウェアなんていう言葉知らないかもしれません)
各社員の行動予定などのスケジュール管理はどうやっているのかといえば、
「メモの回覧」です。
自分に回ってきた回覧メモを、各自に与えられている「卓上日めくり」に
随時書き込んでいく、という、なんとも21世紀だとは思えないスケジュール管理なのです。
「行動予定のホワイトボードくらい用意しておけよ」って感じなのですが、
ドケチ会長のこと。きっとそんな「無駄な出費」は許さないのでしょう。
ちなみに「卓上日めくり」なんていうのを見たのは、もう40年ぶりでしょうか。
遠い遠い子供のころの記憶が蘇ってきました(笑)
昼休みも集団ランチが基本
おかしいところはまだまだあります。そのひとつが「集団ランチ」。
入社当日に一人でお昼を取りに行こうとしたところ、
会社のお局様から注意を受けました。
「仕事とかで外に出ていない限り、うちの男子社員はみんな揃って
ランチに行くことになっています。一人で勝手にお昼に行かないでください!」
思わず唖然としてしまいました。
「休憩時間を自由に使えるのは、法律で保障されてる労働者の権利でしょう?」
と、のど元まで出かかりましたが、さすがに初日からそんな強気なことは言えません。
集団ランチなので基本的に選択権はなく、毎日毎食1000円くらいお金が飛んでいきます。
入社してから3カ月くらいはおとなしく従ってましたが、
さすがに途中からは財布的にもかなりきつくなってきました。
なので、いまでは昼休みの時間にわざと仕事を入れて、
集団ランチはできるだけ避けるようにしています。
休みがとれない、とれにくい
うちの会社は、もともと有給休暇という概念がなかったそうです。
ところが、数年前、有給をないことを理由に入社当日に
退職を申し出た社員が出てきてから、今では全社員が、
年間で3日だけ有給がもらえることになったようです。
ただ、それでもたった3日しかもらえません。
労働基準法でも、最低年間10日の有給休暇からスタートするはずなのに
完全に「会長ルール」です。もうコンプライアンスの「コ」の字もありません。
しかも、休む時には「私用の為」という届出理由ではダメで、
届出書に作文のように理由を書かないと承認されないというシステムなのです。
また、シフトの予定休も前日まで未定で、いきなり上司から
「俺、明日休みたいから、かわりにお前が出勤でよろしくな~」なんていわれることも
ちょくちょくあります。
いつだったか仲の良い先輩に「まともに休みの取れない環境なのに、
みんなよく耐えてますよね」と聞いたら、
「いろいろ言ったところで何にも変わんないし、また転職活動する気力もないしね。
転職ってエネルギー要るでしょ。もうああいうの疲れちゃった」なんて言ってました。
休みすらまともに取れない会社っていうのも、まさにブラックという感じですね。
一斉にタイムカードを押される
残業代なんていうものは、一切ありません。概念すらありません。
なので、昔いたブラック企業でもそうでしたが、終業時間になると
残業してようとも問答無用で一斉にタイムカードを押されます。
これは「うちの会社は残業という概念はない」という会長の考えからです。
早出するのが当たり前、残業が発生しても「それは個人の仕事の進め方の問題」で
一蹴されてしまいます。
ちなみに、未払い残業代の請求をする人間が出てこないように、
会社側での対策はバッチリ打ってあります。
タイムカードの印字は、いつでもうっすらとしか見えないくらいの
「絶妙な印字濃度」に調整してあり、さらに月末のタイムカード締めの日、
一斉に退勤打刻をしたあとは、コピーなどを取られる前に、その日のうちに
すべて速やかにカードが総務に回収されるというシステムになっています。
会社側の「絶対残業代なんて払わないからな!」という強い意志が表れています。
名物モンスタークレーマーの対応で炎上
ここからは少し、仕事の中身の話をしてみたいと思います。
私はいわゆる賃貸管理を担当しています。
いわゆる「賃貸物件のクレーム対応部隊」というやつです。
賃貸管理をしていると、いろいろなお客様がいます。
時には「モンスタークレーマー」と呼ばれる人の対応もしなければならないこともあります。
営業終了間際のあるとき、ある管理物件の住人から連絡がありました。
私がその電話を取ると、
「アパートの上の部屋の住人が、電波を流している。やめさせてほしい」との電話。
この方はいわゆるモンスタークレーマー扱いされている顧客なのです。
電波おばあさんからの地獄責め
いつも夕方に「洗脳電波を流している奴がいる」などと、おかしなクレームの
電話を入れてきます。そして今回の要求は「お前もいますぐ来て確認しろ」とのこと。
事務所にはもう私しか対応できる人間がいなかったので、終業間近なのに
そのお客様のところまで会社のクルマで現調(現地調査)に行くことになりました。
部屋に入ってみると、そのお客様(おばあさん)なのですが、かなり怒り狂っている。
「上の住人が、私の身体を乗っ取ろうと洗脳電波を流し続けている。
すぐやめさせろ!やめさせろ!!」
もちろん、上に住んでいる住民には、何の罪もありません。
こちらとしても、もうなだめるしか方法がない。
「お前は悪魔の手先か!政府の差し金か!!
電波発信装置をつけている○○不動産は悪の手先だろう!!」
たしかに、うちの会社は「悪の手先」みたいなブラック企業。
それは言い得ているが、誓って毒電波などは流している覚えはない(笑)
もうどうにもならないと判断し、近所に住んでいる連帯保証人の娘へ連絡し、
至急来てもらうように電話でお願いしましたが、すぐ来ると言ってなかなか来ない。
来るまでの間、だいたい1時間近くだったでしょうか。
その間、それはもう、地獄の責め苦を味わいました。
「おまえ!こんな家に住まわせやがって!!土下座しろ!!」などと言われ
何も悪いことをしてないのに土下座をさせられたのは、
もう苦痛以外の何物でもありませんでした。
やっと娘が来たときには、ほんと、もう私は半べそ状態でした。
その場は娘さんに引き継ぎましたが、本当にしんどい時間でした。
会社に戻って来た時は、すでに22時。
みんな帰ってしまい、無情にも会社は施錠済み。
自分の部屋の鍵も事務所に置いた私用カバンの中に・・・。
結局、その夜は、駐車場の車の中で一夜を明かしました。
薄給でなんでこんなみじめな思いをしなければならないのか。
カーラジオから流れてくるカーペンターズの「青春の輝き」を聞いて
涙がこみ上げてきました。
後日談になりますが、そのおばあさんは実は認知症だったということが判明し、
アパートは退去、入院することになったそうです。
おまけ 不動産業界のちょっと怖い話
我々も、いわゆる「事故物件」と呼ばれる物件を扱うこともあります。
これはウチで管理している繁華街の飲食店なんですが、
「出る」と言われている有名な部屋があります。
鍵を開けて入ると、真っ暗のなかに人の気配がある。
これは毎度のこと。
ドアストッパーをかけておいて開放していたはずのドアが
スッと外れてパタンと閉まる。これも毎度のこと。
ある時、先輩と一緒にその部屋の設備点検に行ったときに、
「おいお前さ、この部屋って『出るの』、知ってるだろ?」
なんて私をからかってきたのですが、これがマズかったんですね。
どうもそこに昔からいる「住民」を怒らせてしまったようです。
いきなりダウンライトが「パン」という音を発して、
1灯消えてしまいました。
いわゆる電球切れなんですが、タイミングが絶妙過ぎて二人とも無口に。
次に持ってきたスチール製のキーボックスを持ちあげようと、
持ち手に手をかけた瞬間、真鍮製の持ち手がポッキリ折れて
ガシャーンと床に落ちてしまいました。
びっくりした自分も少しズボンを破いてしまい、もう散々な目にあいました。
それからは、そういう物件に行くときには無駄話をしないで
作業するように、そして、お守り持参で行くようにしています。
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